前回の続きです。
今回は加害者側の場合について書いていきたいと思います。
⑴まずは、被害者側との間で争う気があるのか(被害者側との間で喧嘩になってもよいのか)を決めます
前回でも書きましたが、「争う」ということは被害者側に対して喧嘩を売る要素があります。したがって、ここでいう「争う気があるのか」という
のはすなわち、「被害者側と喧嘩になってもいいのか」ということになります。
争いごとや問題が発生した場合、加害者側が責任を負わなければならないケースとそうではないケースがあります。また、仮に加害者側が責任を負
わなければならないとしても、すべての責任を負わなければならないのではなく一部だけでよい場合もありますし、加害者側であるからといって被
害者側の言いなりにならなければならないというものでもありません。とはいえ、被害者側との関係性によっては「『責任の全部を負わなければな
らない』というケースではないだろうけれど、被害者側とのこれまでの関係性や今後のことを踏まえると争わない方がよい」という場合があると思
います。
したがって、そのような場合には被害者側に対して謝罪をした上で、被害者側からの要望をそのまま聞き入れるということになるでしょう。
このような選択をすることはいわば「泣き寝入り」をするようなものであると捉えて、このような選択をすることは「負け」を意味すると考える方
が一定数いらっしゃいますが、個人的にはあえてそのような捉え方をする必要はないと思います。自分に権利があるからといって「その権利を行使
しなければならない」とか「権利を行使しないのはよくないことである」といった考え方もあるのかもしれませんが、個人的にはその考え方には反
対です。いろいろなことを考えた結果権利を行使しないこととしたという場合、それは戦略の一つとしてそのような選択をした、というだけであっ
て、その選択について非難されるべき理由は一切存在しないだろうと思います。したがって、仮に被害者側の要望をそのまま聞き入れるという決断
をしたのであれば、それは「泣き寝入りをした」わけでも「負けた」わけでもなく、単に「数ある選択肢から、いろいろなことを考慮して戦略的に
争わないこととした」というだけだと思いますので、戦略の一つとして「争わない」というのを排除するべきではないでしょう。
もちろん、被害者側に対してある程度の主張(例えば「裁判例上の相場は100万円であるから100万円の支払いで解決として頂きたい」等)を
行ったとしても、被害者側がそれで快諾してくれれば争いにはなりません。しかし、被害者側が快諾してくれるか否かがはっきりとは分からない以
上は、万が一快諾してくれなかった場合のことを想定しておく必要があります。
また、被害者側に対して積極的に喧嘩を売る気はないが、万が一喧嘩になったらそれはそれで仕方がないと考える場合(裁判例上の相場以上の金額
を支払うことになってまで喧嘩を売りたくないわけではないと考える場合等)には、万が一の場合には被害者側と喧嘩になる可能性があることを承
知の上で下記の⑵以下に進むこととなるでしょう。
法律上認められる主張を行うことと被害者側と喧嘩にならないことを天秤にかけて、ご自身にとってどちらがより大事かによって判断することとな
ると思います。
⑵次に、争う余地があるのか否かを判断します。
⑴の段階で多少とも争う気がある場合は、次に、そもそも争う余地があるのかどうかを判断します。
法的な観点からみて加害者側が全責任を負うべき場合であって、かつ、被害者側からの要望が裁判例等の相場に従っている場合には基本的には争う
余地は多くはありません。とはいえ、そのような場合でも、そのほかの要素から交渉できる要素はあります(ケースによって様々なので具体例では
難しいですが、例えば、裁判まで行けば長期化する上に労力や費用もかかることから、早期に終わるのであれば相場よりも安い金額で終わってもよ
いと考えられる場合等)。
この点については、弁護士などに相談の上決めた方がよい場合が多いと思います。
⑶最後に、どのような方法で争うのかを決めます。
この点については、前回の「争いごと・紛争・悩み・問題が生じた場合にどうするか①」の「⑵」と同様ですので、そちらをご参照下さい。
以上より、基本的な考え方は被害者側の場合と同様です。
争わないという決断をした場合には被害者側の方に対して謝罪をするといった対応を行い、被害者側の方の求めに応じて対応していく(場合によって
は被害者側の方の求めを先取りして行動する場合もあると思います。)ことで終了します。
他方で、多少とも争うという決断をした場合には、上記「⑶」(前回の「争いごと・紛争・悩み・問題が生じた場合にどうするか①」の「⑵」)のう
ちのどの段階から始めるのかを決め、各段階に応じて弁護士などに相談するということがあり得るでしょう。
また、被害者側に対して積極的に喧嘩を売りたいわけではないが、喧嘩になるようなことはないだろうと(それなりの確証をもって)考えられる場合
には上記「⑶」(前回の「争いごと・紛争・悩み・問題が生じた場合にどうするか①」の「⑵」)の「①」から始めてみるということもあり得ると思
います。
いずれの手段を取るにしても、争うということは被害者側と喧嘩になるリスクを孕んでいるということを承知の上で、そのリスクをどこまで受け入れ
ることができるのかによって進め方が変わってきます。
また、各ケースによって喧嘩を売ることになること以外のリスクが生じてきたりもしますので、このあたりの判断は非常に難しい場合があります。
判断に迷った場合や何を考えて行けばいいのか分からない、そもそもどのようなリスクとメリットがあるのか分からないという場合についても当事務
所では相談を受け付けていますので、お気軽にご相談下さい。
加害者側の場合でも被害者側の場合でも、争う余地がある、すなわち、何らかの法的な主張を行う権利があるからといってその権利を行使しなければ
ならない(行使しなければ負け)ということはないと思います。権利を行使するにしても、何らかのリスクを孕んでいるケースというのは多々ありま
すので、リスクとリターンを天秤にかけてどちらを優先するのか、どの程度のリスクであれば受け入れることができるのかといった様々な要素を加味
して権利を行使するか否かを決めていくことが肝要であろうと思います。
(文責:弁護士 佐藤優希)
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