我々が日常生活を送る中では様々な場面で「契約」をする機会があります。
挙げ始めたらきりがありませんが、例えば
日用品や食材の買い物に行く際には、お店との間で「売買契約」を交わしています。
会社にお勤めの方は勤務先の会社との間で「雇用契約」を交わしていますし、自営業の方でも従業員を雇っている場合には従業員との間で「雇用契約」・「(準)委任契約」・「請負契約」を交わしています。
賃貸物件にお住まいの方は「賃貸借契約」を交わしています。
といった具合です。
では、これらのすべての場面でいわゆる「契約書」は必要なのでしょうか(※法律上、契約書の作成が義務付けられている場合には当然、契約書を作成しなければなりません。したがって、以下では法律上の作成義務はない場合を念頭に置いて話を進めて行きます。)。
この問いに対する答えは、契約相手が契約を無視してきた場合のリスクケアをどこまで行うかによる、もっと有り体に言ってしまえば、「契約相手」を信用するか否かによる、ということになるでしょう。
それは、「契約書」というものを作成する理由に立ち返ると自ずと見えてきます。
なぜ「契約書」を作成するのかといえば、その答えは様々ですが、「争いになったときに備えるため」というのが最も大きいのではないかと思います。
そして、争いになる場合というのはどういう場合かといえば、契約相手が契約内容を無視してきた場合です(契約自体を完全に無視したり、契約内容の一部を無視してきたりなど、様々です)。
したがって、契約内容について争いになりそうな人(契約内容を無視してきそうな人)と契約する場合や、万が一争いになった場合にすぐに対処しなければならないような内容の契約を行う場合には契約書を作成しておいた方がよい、ということになります。
①契約相手との関係性が深くて、契約が無視されるということはおよそ考えられない、という場合であれば契約書を作る必要はないという方向になり
やすいでしょう。
とはいえ、例えば、不動産を売る(又は買う)というような場合や、親族からの多額の援助(1000万円以上の金額の援助等)を前提に事業を行
うという場合など、契約内容が重大なものである場合(=契約相手が契約を無視してきた場合の損害が大きい場合等)にはリスクケアとして契約書
を作成した方がよい場合もあり得ます。特に、親族所有の不動産を借りる(又は貸す)という場合には、その不動産を直接貸す(又は借りる)親族
のご子息にまで承継されて継続するものですので、契約書を作成しておく方が後の争いを生まないと思います。
②契約相手との関係性が浅くて、契約が無視される可能性がある、という場合には契約書を作っておいた方がよいという方向になりやすいでしょう。
この場合でも、契約内容が些細なもの(と思えるような内容)である場合には、契約書を作成する手間をかけるくらいなら契約が無視されてもよい
、と考えることができる場合もあると思います。ただ、会社や自営業者の方の場合は、決算書において損金として計上したい場合があります。このような場合を想定するのであれば、例え契約内容が些細なもの(と思えるような内容)である場合であっても契約書を作成しておく方がよいということになります。
③契約相手との関係性は深いが、契約を無視される可能性はある、という場合は契約書を作っておく方がよいという方向にはなると思います。
しかし、この場合は、契約相手との関係性が深いがゆえに、「契約書」という書面を作ることは躊躇われるということが多々あると思います。
このような場合には、契約をしたことを何らかの形で残す、という方法が考えられます。この方法については後述します。
そのような方法も難しいという場合には、契約自体を断るか、契約が無視されてもいいと腹を括るということになるでしょう。
とはいえ、仮に契約書(又はそれに代わるもの)を何も作成又は準備しなかったからといって諦めるしかない、とは言い切れません。
ケースによりますが、周辺事情を拾い集めていって、「契約をしたこと」を立証することができるケースもあります。しかし、非常に高いハードル
を超えなければならないことはほぼ間違いないと思いますので、相応の労力と時間がかかることは覚悟しておいた方がよいでしょう。
④契約相手との関係性は浅いが、契約が無視されるということは考え難いという場合については判断が難しいところです。
そもそも関係性が浅いにもかかわらず契約が無視される可能性が低い場合というのが存在するのか、というところから問題になるでしょう。
仮にそのような場合があるとすれば、契約相手の方が契約書を作成していたり、その場で決済するケースの方が多いのではないかとも思えます。
例えば、このようなケースとして最も多いのが日々の買い物の場面だと思います。スーパーの会社との間の人間関係など存在しない場合が大多数だ
と思いますが、日々の買い物で例えば100円のチョコを買う際に「100円を払ったのにチョコをくれなかったらどうしよう」と考えることはな
いでしょう。それはなぜかといえば、普段の買い物の際は、チョコの実物をレジに持って行って、100円と引き換えにその場でチョコを手渡され
ますし、レシート又は領収書という形で自分が100円でチョコを買ったことが分かる書面(契約書自体ではありませんが、契約書に代わるものと
いえます)が作成されているからだと思います。
とはいえ、やはり契約相手との関係性が浅いということは、「契約が無視される可能性が低い」という判断自体の信ぴょう性が低いわけですから、
基本的には上記②と同様にこのような場合には契約書を作成しておいた方がよいという方向になりやすいと思います。
以上、契約書を作成するべきか否かについてざっくりと述べてきましたが、「契約書を作成する」という行為は場合によっては「あなたのことを信用していませんよ」と言われていると感じる方もいます。契約する側としても「契約書を作成したいのですが、、、」とは言いにくい場合もあると思います。
そのような場合にはどうするのか、ということについては次回。
(文責:弁護士 佐藤)
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