前回、契約書を作成しておいた方がよい場合はどのような場合か、ということを書いてきました。
ただ、契約書を作成した方がよいのだろうけれども、契約相手との関係性等の観点から契約書の作成を頼みずらい、というケースもあると思います。
そのような場合にはどうするのか、ということについて今回は書いていきたいと思います。
ポイントは、契約を結んだこととその契約内容が分かるような記録を残しておく、ということです。
①録音する
口頭のやり取りで契約を結ぶ場合には、録音しておくことがよいでしょう。基本的には、録音するにあたっては契約相手の承諾を得る必要はありま
せん。
②メッセージ、メールやLINEなどでやり取りを行う
契約を結ぶまでのやり取りをメッセージ、メールやLINEなどで行い、その記録を保存しておくという方法もあります。現代においてはこの方法
が最も手軽なのではないかと思います。争いになった際によく発生することとして、契約相手が契約を無視してきたことにムカついて契約相手の連
絡先や契約相手とのメール等をすべて消してしまった、ということがあります。ムカつく気持ちはよく分かりますが、ムカついた時こそ一旦落ち着
いて、メール等のバックアップを取っておきましょう。
③日記等に記載する
日常的に日記やメモなどを付けている方であれば、契約を結んだり契約に関する交渉中に付けていた日記やメモも契約書に代わりうるものとなりま
す。
ただ、日記などを付ける習慣のない人が契約についてだけ記載しているような日記帳があったとしてもあまり意味がないケースが多いです。なぜな
ら、第三者から見れば、本当に契約が結ばれたり契約に関する交渉中に書かれたものであるのかが分からないため、後から自分に都合の良いように
記載しただけではないか、と疑われてしまうからです。日付を併記すればよいのではないか、とも思えますがそれもあまり意味はありません。とい
うのも、例えば「2024/1/1 売買契約締結」とメモをしていたとしても、2024/1/1という記載を2024/2/1に行っている可能性を否定できないから
です。
したがって、日記等を付ける習慣のない方はこれを機に日記をつけるようにして争いごとに備えるか、契約に関するメモを取る際にはメモをした日
付が分かるような形で残しておくことが重要です。例えば、word文書で記載する(プロパティに編集年月日が記録されるため)、手書きのメモ等の
写真を撮っておく(写真のデータには写真を撮影した年月日が記録されているため)などが考えられます。
④入金記録を付ける
お金の貸し借り、物の売買や賃貸借等、お金に関する契約を行う場合であれば、お金の出入りに関する記録を残しておくことも有用です。
最も簡単なのは、お金の移動を振込で行うことによって通帳に記録するという方法です。
また、現金でお金を動かす場合には、その都度メモを付けておくか、銀行口座に入金するという方法がありうるでしょう。このメモに関しても上記
「③」で述べたように、メモを付ける習慣がなければあまり有効にはなりにくいですが、お金のやり取りが多ければ自然と習慣化していきますので
、特に賃貸借や中長期のお金の貸し借り等の場合には有用なケースが多いと思います。
以上の他、請求書、見積書や領収証を送ってもらうということも有用です。
⑤契約当事者以外の人に同席してもらう
上記①~④には若干劣りますが、契約相手と自分以外の第三者に同席してもらって、争いになった時に証言してもらうというのも一つの方法になり
ます。
ただ、上記①~④に比べるとその効力は強くはありません。
また、同席者の人選も大事になってきます。自分に近しい人(例えば、親族等)に証言をしてもらったとしても、関係性が近いがゆえに、有利な証
言をしているのではないかと疑われてしまいます。したがって、契約内容にほとんど利害関係を持たない人に同席してもらうというのがよいでしょ
う。
さらに、同席者は1人よりは2~4人程が望ましいといえます。なぜなら、同じような内容の証言が複数存在する方が証言の信用性は上がるからで
す。
よって、上記①~④のいずれも難しい場合には、信頼できる人で、契約内容に利害関係を持たない(その契約が成立しようがしまいが利益を得るわ
けでもないし、損失を被るわけでもない人)2~4人に同席してもらうことがよいでしょう。
記録の残し方というのはケースによって様々ですので、場合によっては上記以外の方法もありうるとは思いますが、あくまで一例として上記を挙げさせていただきました。
人間関係というのは信頼関係の上に成り立つものですが、信頼度というのは目には見えません。デスノートの死神の目で人の寿命が見えるように人の信頼度が見えるような目があればいいですがそんなものはありません。そうすると、やはりリスクケアというのを怠ることはできないと思います。
リスクケアをしている人を見た時に「自分のことを信頼できないというのか!」と憤慨するのではなく、「ちゃんとしている人なんだな」と思えるような関係性が気持ちがいいなと思います。
(弁護士 佐藤優希)
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