法律とは何か、と聞かれた場合、皆さんは何と答えるでしょうか。
私の中では、大きく分けて2つの回答があると思っています
一つは「法律とは『ルール』である」という回答、もう一つは「法律とは『ツール』である」という回答です。
個人的には、どちらの回答も正しいだろうと思います。
一面では、法律は社会のルールとして機能します。その典型例が刑法でしょう。例えば、刑法199条では殺人罪が定められていますが、この規定があるからこそ、「人を殺害してはならない」というルールが形成されます。
また別の側面では、法律は自身が行いたいことを実現するためのツール(道具)として機能します。例えば、騙されて不要な物を買ってしまったので返金を求めたいという場合、民法95条や96条に基づいて契約の取り消しをして返金を求めていくことになりますが、この場面では、「お金を返してもらいたい」という目的のために民法を駆使するわけですから、法律がツールとして機能しているといえるでしょう。
それでは、この「ルール」としての側面と「ツール」としての側面のうち、どちらが優先するべきでしょうか。
この問いに対しては、絶対的な答えはないと思います。ただ、私の個人的な考えとしては、「ルール」としての側面があってこそ「ツール」として機能するのだと思いますので、どちらかと言えば「ルール」としての側面を優先する方がよいのではないかと考えています。
「ルール」としての側面と「ツール」としての側面をどの程度重視するのかという問題が実際の事件処理にどのような影響を与えるか、というと以下のようになるでしょう。
ある従業員を解雇したいと思ったが、その従業員を直ちに解雇することができる程の重大な事由はない、という事例を想定します。
この例で、法律の「ルール」としての側面を重視して「ツール」としての側面をほとんど考えないとすると、
「今の段階で解雇することは違法になるから、解雇は諦めよう」となります。
他方で、法律の「ツール」としての側面を重視する場合には、
「今の段階で解雇した場合には、解雇した従業員から損害賠償請求がされる。その場合の損害金としては200万円程であろう。しかし、この従業員を雇い続けることによる損失の方がはるかに大きい。そうであれば、200万円の損害は覚悟の上で現時点で解雇することもありだ。」となります。
法律をツールとして考える場合には、法律はあくまで考慮要素の一つに過ぎず、その他の考慮要素と同列に並ぶことになるわけです。
先ほど、私の個人的な考えとしては「どちらかと言えば『ルール』としての側面を優先する」と書きました。
これは決して、上記の例でいう後者の考え方を否定しているわけではありません。むしろ、上記の例でいう後者の考え方は「あり」だと思います。
ただ、このような考え方が行き過ぎるとどのようなことでも損害覚悟であれば行ってもよい、ということになりかねません。それはどう考えても間違っていると思います。したがって、法律を「ツール」として考えるとしても、一定の限度を設けるべきでしょう。その限りでは、法律の「ルール」としての側面を決して忘れてはならないと言えます。その意味で、「どちらかと言えば『ルール』としての側面を優先する」ということです。
この「ツール」としての側面と「ルール」としての側面の塩梅を図るのが非常に難しいところです。
この塩梅の図り方には弁護士ごとの主義が出るところだと思います
私にももちろん主義・主張はありますが、それは数多ある主義・主張の一つに過ぎません。私の主義・主張が絶対的に正しいというものではないと思います。ですので、「この考え方に基づくのであれば●●という手段があり得ますよ。その場合はこういうリスクがありますが、反対に△△というメリットもあります。」といった感じで、できる限り多くの考え方に基づいた選択肢をお示しし、それぞれの選択肢のリスクとリターンをお示しすることが肝要であろうと思います。
たくさんの引き出しをもって仕事に臨んでいきたいと思った次第です。
(文責:弁護士 佐藤優希)
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